朝ごはんはエネルギー不足に陥った朝の脳に、唯一のエネルギー源=ブドウ糖を供給するだけでなく、実は毎日の体内活動リズムを整えるうえでも大きな役割を担っていることが、最近の研究ではわかっています。
また、朝ごはんを毎朝きちんと食べることによって、その日一日の食事摂取量が適当に調節され、メタポリック・シンドロームの予防ができることがわかってきています。
人間の体内時計はもともと一日が約24.5時間と、30分ほどズレています。これを地球用の24時間周期時計に修正してくれるのが、目から入って、「視床下部」の「視交叉上核」に送られる、「朝の光の刺激」です。
人間の体内リズムのメカニズムをオーケストラにたとえれば、視交叉上核がいわば指揮者で、腸や肝臓や心臓などの”楽団員″は基本的にはその指示に従って、1日24時間の「日内リズム」というハーモニーを奏でています。ところがよくしたもので、この指揮者が多少サボってもハーモニーに大きな支障が出ないよう、実は楽団員は楽団員でそれぞれ自分なりの時計を持っていて、指揮者不在でも自分たちだけで「日内リズム交響曲」を演奏できるよう訓練されています。仮に朝日を浴びなくても、朝食を毎日きちんと決まった時間にとり、腸や肝臓が働き出すことで、カラダはその日一日のリズムを刻みはじめ、日々の食事量も自ずとコントロールされていくといいます。
したがって体内時計遺伝子の研究者の間では「肝臓などの臓器にも体内時計はある」という言い方が一部にされ、マウスを使った実験では光の刺激より、むしろ給餌の刺激に、体内リズムは影響を受けやすいという結果も出ています。
いわば視交叉上核が世界の標準時刻となるグリニッジ天文台で、腸や肝臓など「各国」にちらぼったローカル時計は、毎朝、各自の秒針を視交叉上核の指令で世界標準に合わせます。とはいえ、ときどき調針をサボったくらいでは時計が大きく狂うことはなく、むしろ毎日の食事の刺激によって、臓器に存在するローカル時計は一日一日のリズムを自ずから形成してもいます。
つまりこの「摂食リズム」さえきちんとしていれば、光の刺激による体内リズムの「同調」が多少おろそかになっても、一日のペースは維持できるわけです。
さらに、朝ごほんと夕ごはんのどちらが体内リズムの調整に寄与するかを調べた実験では、肝臓などの「体内時計遺伝子発現リズム」は、朝ごはんの刺激により影響を受けやすいことがわかっています。
また、脳の活発な活動には、体温が適正レベルまで上昇していることが前提となります。そして、この体温上昇のカギを握るのも食事、とりわけ朝ごほんなのです。
体温は、体内時計と脳の働きの関係を考えるうえで、もっともわかりやすい指標のひとつです。人間の体温は「概日リズム」を刻んで変動し、とくに明け方から朝にかけて体温が上昇に転じるかどうかが、寝覚めの快適さはもちろん、一日を通じた活動の効率に大きく関わっています。また、糖の代謝を促進するコルチゾールなど各種ホルモンも、体内時計によって分泌のサイクルがコントロールされています。
体温は通常、朝4時ごろがもっとも低く、そこから上昇に転じて、午後4時ごろピークに達し、ふたたび下降に転じます。一日の変動の幅は0.5~1.0度と人によりますが、体温が十分に上がっていて軋めて、脳などの体内の細胞の働きは活発になります。
たとえば各種スポーツ競技における世界記録は「午前よりも午後」に多く更新されているように、体温と細胞の活動効率は密接に関わっています。また、テストや試験の成績も、午前と午後ではおおむね午後のほうが正答率が高いとしたデータは枚挙にいとまがなく、脳の細胞もある程度体温が上がっていなければ、本来のようには働きません。
最近では、お昼をすぎても体温が35度台の低体温の子どもが増え、これでは勉強にしろ運動にしろ、その子の能力が十分に発揮されるはずがありません。
そうした子どもの脳やカラダのスムーズな活動の支えとなるのが、毎日決まった時間に摂る食事なのです。人間をはじめ動物においては体内時計が刻む「概日リズム」による体温変動に加えて、食事を摂ることでも、体内に熱が発生し、体温が上昇します。これを「熟効果」または「特異動的作用」といいます。
たとえば朝ごはんで摂ったブドウ糖や脂質の4~5パーセント、タンパク質では実に約20パーセントが熱に変わり、体内時計に基づいた午後にかけての体温上昇を、さらに加速させます。つまり、午前は午後よりどうしても体温は低いのですが、朝ごはんをしっかり食べると、その熱効果で体温は上がり、午前中の不利を挽回することもできるのです。
とくにタンパク質の熱効果は大きいので、朝ごほんにはお米やパンによるブドウ糖の摂取=脳のエネルギー補給はもちろん、卵や肉・魚類などタンパク質のおかずで体温を上げることも大事。試験や運動会など「特別な日は、おかずをあともう一品」というお母さんの心遣いには、栄養学的にもきちんと裏づけがあるのです。
このように朝ごはんは、とかく夜更かし・朝寝坊になりがちな現代の子どもの脳やカラダにエネルギーを供給し、体内リズムを整え、体温を上げてくれる、ありがたい存在なのです。